2002 SEP 27 朝 曇り 昼 曇り 夕 曇り
午前=水田に液肥の葉面撒布、ニンジンの間引き、午後=川越湯遊ランド
2002 SEP 28 朝 雨 昼 小雨
農作業 休み
川越湯遊ランド
すでにお彼岸もすぎたというのに、わが農園が関わる埼玉県農業生産者、流通グループの暑気払いの会があるというので、息子さんについていくことにした。川越の「湯遊(ゆーゆー)ランド」と称する会場で行うという。名前からしてすでに私が経験したいかなる飲み会にも類するものでないことが予想され少々不安である。が一方で、埼玉県農業生産者の飲み会といえば、「そりゃあ、とうぜんなんてったって川越湯遊ランドに決まりですよ」とおもえるほど、なぜかそれらが頭の中でピタッとはまってしまい、なんともうまくいえない感慨深い安堵感のようなものを同時にもたらした。
息子さんは、5年間ここに住んで電車に乗るは2度目だという。その2回とも向かった先は、もちろん川越湯遊ランドである。川越に到着すると、会場へ向かう道中で行列をなしているラーメン屋に出くわした。入口に掲げてあるメニューをみるとラーメン、ぎょうざなど4品しか書かれていない。のぞくと無駄のないこざっぱりした店内である。
「どうします?」
「そうだなぁ〜、時間ないしなぁ」
店を離れしばらくすると川越湯遊ランドに到着した。1メートル50センチもあろうか巨大な招き猫の置物がわれわれを出迎えてくれた。のっけから期待を上回る出迎えぶり。無論、中へは靴を脱いであがる。スリッパなどというあんな格式張ったものなど、そんなものはいりません、どうぞ、足の裏までのすべてくつろいでいってくださいとでもいわんばかりに、床全面にカーペットが敷き詰められたにくい心遣い。壁面には聞いたことも見たこともないが、演歌歌手、大衆演劇、時代劇の役者のポスターが張り巡らされている。目張りの笑顔がまぶしい。あるぞ、あるぞ、動物の剥製も。
そんじょそこらの剥製とは一線を画す、トラの背中にウミガメが乗るといった力の入れよう。亀のうえに三匹の像が乗り、鼻で地球を支えているインドの宇宙像はみたことがあるが、ここでは亀が上である。そんな会場内をアロハ柄のジンベエを着た湯上がりのおじさん、おばさんがほとんど無秩序にユラユラしている。ある者はビールを飲み始め、ある者はマッサージ機に腰をおろし、またある者はカラオケボックスへと向かう。しかしその多くは、床すれすれまで下がったのれんのある入口をくぐる。のれんの向こうはかなり暗そうだ。おそるおそるのれんをくぐってみると、やってる、やってる、時代劇。会場はもちろん、全面座敷、寝ころびながら楽しむことができる。
どこをとっても贅沢なもてなしぶり、至れり尽くせりである。さらにロビーを見渡すと、中宴会場と書かれた鳥居がみえる。赤く光った提灯がいくつかぶらさがっていて、部屋の名前がひとつひとつに記されている。ここだ、ここだ。鳥居をくぐるとそかから廊下はもうやはり川越、城下町といった風情。照明を落とした粋な演出、瓦屋根のファザードがさらに品格を与える。鶴の間、鶴の間、あった、あった。格子戸を開け、さらに襖戸を開けると、いた、いた、土色したオヤジたちが、いっぱい。すでにアロハを着ている者数名。どうやら、とことんまでやるつもりのようだ。
「ここはよぉ、1000円払えばよぉ、風呂はいってよぉ、そこで、おめえ、ほら、あそこのロビーのよぉ、脇でよぉ、こうしてよぉ、朝まで寝てたってよぉ、な〜んにもいわれねえ〜んだからよぉ、1000円だぜ風呂入って、やっすい、やすい!」
あそこのロビーの脇とは、どこだろう。
5時からはじまった宴会は7時には終わった。農家の朝は早い。つられるように宴会が終わるのもまた早い。無論、アロハグループはこれからが本番のようだ。われわれは、招き猫に別れを告げた。入るときはくつろぎの施設であることは予想していたものの、さすがに少し緊張していたためだろうか、猫が電気仕掛けで右に左にと小刻みに震えていたことに、入るときは気づく余裕さえなかったようだ。
「どうします?」
「そうだなぁ〜、よってってみようかなぁ〜」
われわれはもと来た道を引き返した。
「ここだ、ここだ、ここを曲がったんだよなぁ」
「そうスね」
「あれ〜っ、暗いぞぉ、終わっちゃったかなぁ」
「まだ7時すぎですからね、飲食店でこんな時間にやってないわけないでしょ」
店の前まで来ると閉まっていた。扉の貼り紙には「麺が品切れ次第、閉店させていただきます」とあった。1時間ほどして寄居に到着すると、どうしても忘れられないのか、10年ほど製麺会社に勤めていたせいかはわからないが、とにかく小腹がすいているらしい息子さんは、やはりラーメンを食べたい旨を私に伝えた。食べたいラーメン屋が2軒あるという。われわれは駅の近くの無料駐車所においってあった軽トラックを走らせ、その1軒に入った。脂ぎったとんこつであった。運転しながら息子さんはあたかも食べたことを後悔するかのように「や〜っぱり、夜はあ〜っさり味にすればよかったなあ〜」と言った。軽トラックが闇の農道に吸い込まれるように走る。暗闇の中に小さな赤い光がチラチラ見える。
「やべえっ、警察だ!」すかさず安全ベルトをするが時すでに遅し。
「すいませ〜ん、検問で〜す。あれぇ、おにいさん、少しのんでるんじゃないの〜」
田舎の金曜日の夜に農家の軽トラックとくれば、これはもう恰好の餌食かもしれない。
長年、田舎で取り締まっていれば、おそらくピンッ!と来るのではないか。
今年2002年6月から「悪質・危険な運転行為などに対する罰則」が引き上げられた。「酒気帯び運転」は、呼気中のアルコール濃度0.25mg/l以上から、0.15mg/l以上に引き下げられ、罰金は5万円以下から、30万円以下に引き上げれた。基礎点数も引き上げれ0.15以上0.25未満は、点数6点、免許の停止である。この0.15mg/lという値はビールいっぱい程度でも、出てしまうといわれている。軽トラックの座席で待つことにした。検査の結果は、0.1mg/l。警官は「もう一度吹いてください」「これで口をゆすいでください」「もう一度吹いてください」と何度か吹かさせたらしい。
だが結果は、どうしても0.1mg/l。違反として取り締まることができなかった。しばらく休んで、再びわが農園へと向かうため、息子さんは闇の農道を走らせ、言った。
「ああ〜っ、よぉ〜〜かったあ〜〜。とぉ〜んこつ食べといてえ〜〜っ」
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