[ 倫理的経済的 ]
 
坂本龍一からちばてつやまで。本当にクリエイティブなアーティストが自分の
権利を問うときに行き着く人がいる。柳原敏夫
多才な彼がまず、アーティストが独立するときに必要な知識を紐解く。
事業を始めるのには資金が必要だ。それをどうするか。

 EquityとDebtそして株式の本質

柳原敏夫

SPVやSPC(特定目的会社)


 SPVとは、証券化の対象となる資産(債権)を購入して、証券の発行体となる組織のことで、Special Purpose Vehicleと呼ばれます。特定の目的のために作られた媒介というニュアンスです。
 そして、SPVとして様々なタイプの組織がありますが、その代表的なものとしてSPCがあります。SPCとはSpecial Purpose Companyの略で、SPVのために新たに作られた会社のことです。
 ここの問題は、なにゆえ、SPVやSPC(特定目的会社)のような者が登場する必要・必然性があるのか。株式みたいに、株を売る人と買う人と会社と株式市場さえあれば足りるのではないか、という疑問です。

(a)、SPV
 この点は、株式と対比してみると、問題点がもう少し明瞭に浮かび上がってくるように思えます。つまり、株式の場合、株式を発行した会社は、元々株式の転々譲渡を前提にしています。つまり、株式の転々譲渡により、株主がどんどん変わろうが構わない。たとえば、配当なら、一定の時点における株主名簿に記載された者に支払えばいいようになっています。
これに対し、住宅ローンやリース債権の場合、債権の転々譲渡により債権者がどんどん変わることを予定していない、すくなくとも現在の仕組みはそのようになっていない。その結果、債務者のほうは、住宅ローンやリース債権の支払をする相手がコロコロ代わっては、いったい誰に支払ったらいいのか分からなくなり困るという事情があります。しかし、証券化という以上、証券が自由に転々譲渡されることが不可欠です。
そこで、一方は転々譲渡は困る、他方は転々譲渡してもらわなくては困る、この二律背反(矛盾)を解決するために編み出されたのが、ほかならぬSPVなのです。つまり、住宅ローンやリース債権などの資産を持つ者(最初の債権者)と、お金を払って、住宅ローンやリース債権などの証券を購入しようという一般投資家との間に入って、両者の橋渡しをする媒介のことです。

具体的にどういう役割を果すのかというと、
一方で、SPVは、住宅ローンやリース債権などの資産を持つ者から資産を譲りうける(もちろん代金を支払って)。
そして譲り受けた資産を証券化し、(細分化して)一般投資家に売り出す。
しかし、ここから証券化特有の技術を導入し、
1、対債務者との関係
証券を、一般投資家に売り出したからといって、株式みたいに、買主が直接、会社と権利関係に立つのではなく、あくまでもSPVが最後まで、債務者と債権債務関係に立ち、SPVが債務者からローンの支払(ローン債権)やリース代(リース債権)を受け取るようにする(注11)
2、対一般投資家との関係
その結果、証券市場で証券を購入した一般投資家は、株式みたいに、債務者にローンの支払(ローン債権)やリース代(リース債権)を求めるのではなく、SPVに対し、自己が受け取る利益を求め、SPVは、債務者から受け取ったローンの支払(ローン債権)やリース代(リース債権)を一般投資家に分配する。
つまり、証券は自由にどんどん持ち主が交替(転々譲渡)できるようにしたい、しかしその場合でも、債務者との関係では、常に特定の者(SPV)が債権者として権利を行使(債務者から支払を受ける)するようになっていて、以上の矛盾を解決したのです。これが媒介者としてのSPVが登場する理由です。
(b)、SPC
 SPVの組織として、信託(銀行)や民法上の組合や商法の匿名組合がなどがありますが、最も活用されるのがSPC=Special Purpose Companyという会社です。
 では、なにゆえ、このSPCが活用されるのか。 それは、SPVの存在理由から導かれます。つまり、SPVという組織は、それ自体が目的ではなく、あくまでも証券化というシステムを回していくために、債務者と投資家との間を取り持つ媒介役として存在する理由があります。
そこで、投資家からすれば、
1、単なる媒体にすぎないSPVと投資家に二重課税されるようなことは避けたい(法人税の透明性=Tax Transparency)。
2、単なる媒体にすぎないSPVが、原資産保有者(最初の債権者)の倒産やSPV自身の倒産によって影響を受けることは避けたい(倒産隔離=Bankruptcy Remote)。
3、従来存在する会社・組織をSPVとして利用すると、従来の業務による資金の流れ・会計とSpecial Purposeによる資金の流れ・会計とが混同され濫用される恐れがあるので避けたい。
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そこで、この問題を解決するために、新たにSPCという会社を設立し、
1、ケイマン諸島のような場所で会社を設立して、租税(SPCへの課税)を回避する。
2、SPC自身が破産することのないように、SPCの設立にあたって、定款にSpecial Purpose以外の業務ができないなど様々な制約を課す。
3、一からまっさらな状態で、Special Purposeのためにのみ活動し、資金を動かすことにする。
これが、新たにSPCという会社を設立する理由です。

これに対し、従来のやり方である信託銀行でも、
1、二重課税されない(信託銀行には課税されない)。
2、信託銀行が倒産しても、信託銀行の債権者は、信託財産を差し押さえることは禁じられている。
といった長所がありますが、他方、
(1)、SPCを設立するようには、簡単に、信託銀行を設立するわけには行かない。
(2)、そうすると、既存の信託銀行を利用するしかなく、それは何かと自由がきかないし、また一からまっさらな状態で活動することができない。
といった欠点があります。

また、民法上の組合や商法の匿名組合でも、
1、二重課税されない(組合には課税されない)。
2、簡単に設立することができる
といった長所がありますが、他方、
(1)、組合が倒産した場合には、組合の債権者に財産を差し押さえられてしまう。
(2)、民法上の組合は法人格がないので、何かと不便。また、出資者は無限責任を負うので、リスクが高い。
(3)、匿名組合は経営を営業者に一任するので、信頼がないとできない。
といった欠点があります。

そこで、匿名組合でも、営業者の従来からやっている会社や組織に、この活動を委ねるのではなく、SPCと似たように、新たに、Special Purposeのためにのみ営業をする組織を設立して、営業者にその組織で活動をやらせるという形態を取ることが多い。
ここから、資金調達におけるひとつの原則が導かれると思う。
−−出資において、媒介として必要となる組織とは、従来から存在する組織を援用するのではなく、その目的のためだけに存在する組織として、新規に立ち上げた組織でもって運営すべきである。


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注11

但し、古典的な証券なら、手形にせよ、株式にせよ、それが転々譲渡されれば、権利者(債権者)もまた交替する筈なのに、どうして、ここでは、そうならずに、権利者(債権者)が最初のSPVのままにとどまるのか、その理論的な根拠は(私にとってまだ)不明です。



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